マーケティングにまだ慣れていないあなたは「ファイブフォース分析」という言葉を知っているだろうか?
実はファイブフォース分析はマーケティングを考える上で必要不可欠な考え方なのである。
そこで、今回はハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授が発案したこのファイブフォース分析とは一体どのような考え方なのか、またどのようなメリット・デメリットがあり、あなたのマーケティングにどのようにして生かしていけば良いのかについて話していきたいと思うのである。
ファイブフォース分析とは?
ではまずファイブフォース分析とはいったいどのような理論なのだろうか。
ファイブフォースのファイブ(5)とは、ある特定の業界内の競争を引き起こす5つの要因のことを指しているのだ。
その5つの要因は以下の通りである。
① 買い手の交渉力
②サプライヤーの交渉力
③業界内の既存企業
④新規参入者
⑤代替品・代替サービスの脅威
上記に挙げたこれらの5つの要素によって、その業界の構造や競争の性質が形成されてしまうというのが、ファイブフォース分析の考え方なのだ。
では、実際に競争の性質や構造がどのように上記の5つの要素によって、形成されているのかについて「牛丼業界」を例に1つ1つ見て見ることにしよう。
①買い手の交渉力
まずは買い手の交渉力についてである。買い手がその市場に集中している状態、すなわちみんなが牛丼を食べたい状況においては、安くて美味しい牛丼を提供してくれるお店に顧客が集中する。この時、買い手の交渉力は高いと言える。もし、その市場に顧客が集中していなければ、買い手の交渉力は低いと言えるのである。しかし、いくら買い手の交渉力が低くなり、競争が緩くなったとしても、買い手が牛丼を買ってくれなければ話にならないのである。
②サプライヤーの交渉力
次にサプライヤーの交渉力についてである。一般的に、牛丼の主要な材料である牛肉はどこからでも幅広く調達することができる。そのため簡単に仕入れ先を変更することができるので、材料調達におけるスイッチングコストは低く、その点で牛丼業界におけるサプライヤーの交渉力は低いということができる。
③業界内の既存企業
牛丼業界のように、その市場の成長率が比較的低く、しかも同じ業界に多数の企業が存在する場合は競争が激しくなるのである。よって、吉野家、松屋、なか卯など、同じ市場に多数の企業がひしめき合っている牛丼業界はかなり厳しい競争状態に置かれているということが言えるのである。
④新規参入者
牛丼はいわば、牛肉と玉ねぎなどを甘辛く煮込んでご飯にのせただけなのでシンプルであり、製品の差別化には限界がある。そのようなものは新規参入の障壁が低く、企業が新規に参入することが比較的容易である。そのため、競争圧力が高まりやすいと考えられている。実際、回転寿司の企業が自店舗で牛丼を販売するなど既存企業と新規参入者との競争は激しくなっている。
⑤代替品・代替サービスの脅威
飲食業界に属している牛丼業界は、ハンバーガーなどの他のファストフードやラーメン、パスタなどの食べ物に取って代わられる可能性が大いにある。その意味で代替品・代替サービスの脅威は強大である。
ここでは、牛丼業界の業界内における5つの要素について見てきたが、ご理解いただけただろうか。ファイブフォース分析の5つの要素がその業界の産業構造や競争に強い影響を与えているということが解っていただけたと思う。
当然であるが、各業界によって5つの要素が与える影響力は異なっていて、それぞれの構造や競争状態を形成しているのである。
ファイブフォース分析における目標
前章では、ファイブフォース分析とはいかなるものかということについて述べたが、ではこの理論の発案者であるマイケル・E・ポーター教授はファイブフォース分析をどのようにしてマーケティングに活かすべきだと考えたのだろうか。
単刀直入に述べると、マイケル・E・ポーター氏はファイブフォース分析を、特定の業界だけを十分に理解するために発案した。
そして、当然であるがマーケティング担当者はこの考え方を通して、自らの会社が置かれている競争状態を深く理解し、それに対処することが求められている。
これがファイブフォース分析における目標でありゴールである。
競争のメカニズムを理解することで、どのようにすれば最大限の利益を得ることができるのかを考えられるのである。
ファイブフォース分析のメリット
それでは、ファイブフォース分析をどのようにすれば上手く活用することが出来るのあろうか。
前々項にあげた5つの要素に分けて、それぞれをどのように分析すればいいのかについて話していきたいと思う。
【ファイブフォース分析の活用 ①買い手の交渉力】
まず、①「買い手の交渉力」についてである。
買い手、すなわち消費者が競争を激しくするのはどのような場合であろうか。
それは、買い手によって企業が値下げや質の向上を迫られた場合である。
以下のような場合に「買い手の交渉力」は強大化し、企業は収益を犠牲にしなければならなくなる。
・スイッチングコストが低い。
・製品の差別化が進んでいない。
・業界が利益で潤っており、それを見かねて顧客が製品を自ら作製する。
「スイッチングコスト」とは、顧客が現在利用している製品やサービスを別の製品やサービスに乗り換える際に負担する費用や手間、精神的な負担のことを指す。
それが低いということは他の企業の商品やサービスに乗り換えやすいということであるから、業界内の競争は激しくなるのだ。
また、製品の差別化が進んでいないことも、どの企業の商品やサービスも似通っているということなので、乗り換えやすく競争は厳しくなる。
顧客が自ら製品を作製するというのは、そもそもその業界の商品やサービスを購入しなくなるので市場が縮小し、これもまた競争が厳しくなる要因となる。
【ファイブフォース分析の活用 ②サプライヤーの交渉力】
次に、②「サプライヤーの交渉力」についてである。
サプライヤーとは、その業界に物資を供給する企業のことであるが、これらがどのような動きをすると業界内の競争は厳しくなるのであろうか。
それは、他の供給企業よりも値段を高く設定したり、その物資やサービスの質を低下させたりして、サプライヤーがさらに利益を得ようとした時である。
サプライヤーの交渉力が強まるのは主に以下のような場合である。
・業界規模に対してサプライヤーが圧倒的に少ない。
・サプライヤーがその業界に依存していない。
・サプライヤーを変更するスイッチングコストが異様に高い。
サプライヤーが圧倒的に少ない場合やサプライヤーを変更するスイッチングコストが異様に高い場合は、企業が選択できる幅が狭まり、サプライヤーは値上げや質を低下させることが容易になるのだ。
また、サプライヤーがその業界に依存していないということは、他の業界で利益を回収することが可能ということを示しており、その業界で顧客が離れてしまうことを恐れていないので、こちらも値上げや質の低下をすることが容易になる。
【ファイブフォース分析の活用 ③業界内の既存企業 】
次に③「業界内の既存企業」についてである。
当然であるが、同じ業界内に存在する企業同士は競争し、顧客の獲得を目指す。
しかし、どの業界も牛丼業界ほど競争が激しいわけではない。
ではなぜ、牛丼業界のような競争の激しい業界が出てくるのだろうか。
その理由は以下の通りである。
・ライバル数が多い。
・製品やサービスが差別化されておらず、顧客のスイッチングコストが低い。
・業界の成長率が低い。
・他の分野に参入できるような資産や考えを持っていない。
当然ながら、ライバル数が多いと顧客の獲得を目指して競争が激化する。
また、製品やサービスが差別化されていなかったり、スイッチングコストが低いことは、顧客が製品やサービスを変更しやすいということを指しているので、競争が激化する原因となる。
そのような競争の激しい業界を脱して、他の分野に参入しようと考えても、他の分野で生かせるような資産やアイデアを持っていないと、なかなか新規参入することができず、その業界に居座らざるを得なくなり、その場合も競争が激化する一因となるのだ。
【ファイブフォース分析の活用 ④新規参入者】
では、次に④「新規参入者」について考えてみよう。
新規参入者はその業界に入る時、既存企業にはない新たなアイデアと生産力を持って参入してくる。
また、他の業種で獲得した利益をその業界で成功するために投資するので、財力も豊富である。
既存企業の商品やサービスに比べて価格の安いものを展開したり、新たなアイデアを実現した商品を市場に投入するので、当然ながら競争は激化する。
では、どのようなときに企業は新規に参入しやすく、また逆に参入しにくいのであろうか。
企業が新規参入しやすい条件は以下の通りである。
・顧客のスイッチングコストが低い。
・設備投資などのコストが比較的低い。
・政府による参入制限がない。
・既存企業が新規参入者に対してあまり反撃できないことが予測される。
顧客のスイッチングコストが低いということは、顧客が既存企業の商品・サービスから新規参入企業のものに乗り換えやすいということが言え、また設備投資などのコストが低いと新規参入しやすくなる。
また、業界によっては政府の方針によって、新たに企業が参入することが禁止されているものもある。その場合は新たに企業が参入することは不可能である。
その他、業界内の事情や競争状態により、既存企業に体力がなく、新規参入者に対して値下げなどの対抗措置が取れない場合は、新規参入者が参入しやすく、自由にビジネスを展開できることになる。
【ファイブフォース分析の活用 ⑤代替品・代替サービスの脅威 】
そして、最後に⑤「代替品・代替サービスの脅威」についてである。
代替品や代替サービスの台頭はこれまでにも多くの業界を縮小させてきた。
例えば、レコードとCD、フィルムカメラとデジタルカメラ、ガラケーとスマートフォンなどで、その影響力は非常に強大である。
このような既存の商品とは全く違う方法、もしくは類似した方法を提供する代替品や代替サービスはどのような条件で強い影響力を持つのであろうか。
それは以下のような時である。
・既存品からのスイッチングコストが安い。
・代替品・代替サービスの方がコストパフォーマンスが高い。
上記のような要素は、顧客が既存品から代替品・代替サービスに乗り換えることを促し、顧客数が減少させるので、その業界での競争を激化させてしまうのだ。
ファイブフォース分析のデメリット
前項で述べたような要素を元に、業界内の構造や競争状況を理解することで、自社が取るべき対策を練り業界内での立ち位置を定めることができるなど非常に有用な「ファイブフォース分析」であるが、
ファイブフォース分析はそれが発案された時代との状況の乖離により、実は時代遅れになってきている面もある。
それはいったいどのような点なのであろうか。
マイケル・E・ポーター氏がこの理論を発案したのは「競争の戦略」という本で、この本は1980年代に出版された。
この理論が形作られた1970年代は現在と比べ、産業構造が固定的であった。
例えば、テレビを製造している会社は、同じくテレビを製造している会社と競争していたのである。
しかし、時代が進むにつれ、顧客の購買行動が多様化し、顧客の選択肢が莫大に増えた。
そのため、現在では必ずしもテレビ製造会社とテレビ製造会社が競争するのではなく、例えば余暇という広い範囲で、テレビ製造会社とスマートフォン製造会社が競合せざるを得なくなったのである。
そのため固定的な産業の構造を前提として発案されたファイブフォース分析の理論は、産業構造が複雑化した現代には、一致しない理論になってしまったのである。
現代にあったファイブフォース分析とは?
そのように時代遅れになってきている面もあるファイブフォース分析であるが、この理論を現代の産業構造に合わせて修正することは不可のなのであろうか。
もちろん不可能ではない。
先ほどの章で述べたのは、この理論が提供された時代と比べて、産業構造が複雑化し流動的になった現在の産業構造においてファイブフォース分析が当てはめにくくなっているという点であるが、実はこれは簡単に解決することができる。
それは、「顧客が競合していると考えているものに合わせて、分析し直す」ということなのである。
例えば、同じ駅前にあるそば屋と天丼屋は、そばと天丼という違う業種ではあるが、お客さんや経営者は昔からこの2つを対立し、競合するものとして認識していたはずである。
このように、競合している範囲を再設定して分析し直せばいいのである。
まとめ
ここまでファイブフォース分析の概要とその目指すところ、そしてその活用方法について簡単に話してきたが、いかがだっただろうか?
現代には合っていないと言われるファイブフォース分析であっても、それを上手に活用することで自社の属する産業構造や競争が過激化している原因などを特定することができ、自社が身を置く場所やその競争戦略を練ることが可能になるのである。
この記事を読んでいらっしゃるそこのあなたもファイブフォース分析を上手に活用して、現代の複雑化した過酷な競争を勝ち抜こう。
ここまでファイブフォース分析の概要とその目指すところ、そしてその活用方法について簡単に話してきたが、いかがだっただろうか?
現代には合っていないと言われるファイブフォース分析であっても、それを上手に活用することで自社の属する産業構造や競争が過激化している原因などを特定することができ、自社が身を置く場所やその競争戦略を練ることが可能になるのである。
この記事を読んでいらっしゃるそこのあなたもファイブフォース分析を上手に活用して、現代の複雑化した過酷な競争を勝ち抜こう。

一級建築士としての経験を活かした不動産投資家向けのコンサルティングやWEBサイトを複数運営。株式会社アーキバンク代表取締役。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。詳細は公式メールマガジンより。Facebookはこちら
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